借景とは、造園技法の一つである。庭厨の外側の景色を、庭園の内側の要素として取り入れる。ごく簡単にいって、それを借景と呼んでいる。まさに風景を借りる、刈り取る、あるいは奪い取る手法であり、京都の庭師がこれを「生け捕り」と呼んでいるのは、この言葉の意味をズバリと示していて興味深い。借景の語は一七世紀に中国明代の書に現われたのがその最初とされており、日本や中国の風景式庭園でよく見られる。生け捕られるのは山岳や海や田園などであるが、その一つ、海を生け捕りにして見せた建築作品が「水ノガラス」(一九九五年)である。
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この建物は静岡県熱海市の、崖の上に位置する場所につくられた。ある企業のゲストハウスだったこの作品では、水とガラスという二つの「素材」が、建物全体の中心となって展開する。水とガラスとが溶け合い、それらが一つに融合することがもくろまれているのである。まず入り□を抜けると、ガラスのブリッジが現われる。これを抜け、ガラスでできた階段を上り、メインの三階フロアに出る。そこには永の池に張り出しかラウンジと呼ばれる楕円形の空間があり、それがこの作品の象徴的な場所となっている。どこか能舞台を思わせるこのラウンジは、壁も床も天井も、あるいはそこに置かれているテーブルも椅子も、そのすべての建築的要素がガラスでできている。そのガラスだけの空間が、水の上に浮かんでいるのである。というよりも、それらのガラスの空間は、池の水と一体化しているようにつくられていて、池は、前面に見える海と一つに見えるように仕組まれている。すなわち借景の手法であり、結果的にガラスのラウンジ全体は、池の水と溶け合い、さらに視覚的に海とも溶け合って、すべてが一つのものとして見えるようになっているのである。